ワイヤリング


 ワイヤリングの目的 : 

 ワイヤリングは主に部品の脱落を防止するための処置です。
ワイヤリングに用いるワイヤーは基本的にはステンレスワイヤーを用います。
例外的に緊急時に取り外す必要のある個所には銅ワイヤーを用いて強い力を掛ければ切れるようにする場合もありますが通常はステンレスワイヤーを用います。

そのワイヤーをボルトやナット、ネジ等に通し、通常は2本を縒(よ)りながら別のボルト、ナットや固定物と結びます。
この縒りによってワイヤーには「加工硬化」という現象が現れ、縒る前よりも硬くなり、縒る事によってスプリングバック効果により常にテンションが掛かる事となります。

自動車やバイクのワイヤリングであれば0.6mm〜0.8mmのステンレスワイヤーで良いと思います。
最初は0.8mm程度のワイヤーでも巻くのに苦労するかもしれませんが、慣れればピンと張った美しいワイヤリングが出来るようになりますので、是非とも習得して下さい。

このページでは実際のワイヤリング例を一部掲載しています。
これ以外にも多数方法はあると思いますが、あくまで基本として示しております。

実際のワイヤリング方法は別ページに掲載しますのでご参照下さい。



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 (1) 基本的なワイヤリング

 左は基本的なワイヤーの掛け方(ボルト⇔ボルト)です。
ボルトの中心を結んだ線を基準にして見て下さい。

「望ましい位置」

このような位置関係になる事はボルトの穴数などによっては難しいと思いますが、これが最良の穴の位置関係です。
穴が中心線に対して45度まで(青矢印)の範囲に位置するのが望ましいとされています。

「許容される位置」

しかしながら規定トルクをかけたボルトやナットが必ずしも良い向きになるとは限りません。
そこで次に許容される位置という事になります。
中心線に対して90度まで(オレンジ矢印)の範囲に位置すれば許容されます。

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(2) 実質的なワイヤリング

 (1)の基本的なワイヤリングではあくまでもワイヤリングの原則を描きましたが、ワイヤリングを前提としていないボルトやナットでは実際は許容される位置に入る場合も少ないと思います(特に穴が1か所、1方向にしか開いていない物)。
実質的には左のような範囲、つまりは中心線に対して180度の範囲に穴位置が来る事となると思います(逆にこれ以外の範囲は間違っているという事になります)。

いずれの場合もボルトやナットを「締まる方向に引っ張る」という事で、ワイヤーを抓んでみてボルトやナットが締まる方向に回るのであれば正解です。
この実質的なワイヤリングを施した場合、ナットのエッジ(角)にワイヤーが接する事になりますので振動で切れる可能性が高くなりますので少しだけ気に掛けた方が良いと思います。


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 (3) ボルトヘッドのパターン

(1)、(2)はボルト対ボルトでの説明でしたが、実際はボルト対固定物の場合が多いと思います。
この場合も基本的には同様です。

更に、ボルトヘッドの穴によってワイヤーの掛け方も色々です。

左の図の左端は基本的な掛け方でボルトヘッドの端面を這わせます。
しかしボルトヘッドが薄かったりボルトヘッドの周囲にスペースが無い場合などは、真ん中の図のようにボルトヘッドの上面を通す方法もあります。
場所によって使い分けると良いでしょう。

右端の図はボルトの中心を穴が通っていない場合の掛け方です。

この他にも六角穴ボルトや色々な形状のボルトに対してワイヤリングする可能性がありますが、基本はどれも同じでワイヤ出口の位置と引っ張る方向に注意して下さい。


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 (4) その他の応用例−1

ワイヤリングは部品が脱落する事を防止します。
重要なボルト、ドレンボルトなどが実施対象になると思いますが、それ以外でもワイヤリングを施すべき箇所があります。
例えばオイルエレメントなどですが、当然ながらワイヤリングするために穴を開ける訳には行きません。

そこで左の図のように金属製ホースバンドをエレメントに巻いた後(締め過ぎに注意)、それをワイヤリングしればOKです。
この場合もボルトのワイヤリングと考え方は同じでワイヤーがエレメントを締める方向になるようにします。

また、ホースバンドは左の図の状況であればエレメントの極力下に付けた方が良いでしょう(ワイヤーが最短になる事、エレメントの強度がある事などを考慮)。

ホースバンドは自由に位置を調整出来るのでボルトへのワイヤリングよりは楽だと思います。


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 (5) その他の応用例−2

次はオイルフィラーキャップです。
ここは穴開け加工も十分に可能ですが、
「オレのは希少なエレファントキャップだから穴を開けたくない!」
なんていう方も多いと思いますので、そんな時はエレメント同様の対処をすればOKだと思います。

しかしいずれの場合にもワイヤリングではすぐにフィラーキャップを開ける事が出来ません。
一般的にはそれでも不具合は無いと思いますが、オイル消費が多く(この場合の消費とはオイル漏れによる消費では無く、オイル燃焼による消費です)走行毎にオイル補給が必要なんていう事も旧い車では有り得る事です。

その度にワイヤリングし直すのも時間的に厳しい場合もあるかと思います(慣れると物の数分なのですが)。
そんな時はワイヤーの代わりにスプリング(容易には折れない引きバネ)でキャップを締まる方向に引っ張ってやれば良いと思います。

オイル補給の時は引っ掛けたバネを外すだけですので時間もかからないでしょう。


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 (6) その他の応用例−3

同様の理由でレベルゲージは走行毎や、ピットイン時にはオイル量を確認するためにすぐに使用したい部分です。

ここは引きバネを装着し、ゲージが刺さる方向にテンションを掛けるようにゲージとエンジン本体にバネを掛ける場所を作りましょう。


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 (7) その他の応用例−4

これはラジエーターリザーバータンクのキャップに実施したワイヤリング例です。
キャップに1〜2mmの穴を開けてワイヤーを通したもので、受け側に適当な物が無かったのでステンレスのステーを用いてみました。
本来はタンクのステーあたりにしたいところなんですが、作業性等を考慮しこのような方法にしました。


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 (8) その他の応用例−5

これはラジエーターキャップの例です。
キャップの先端に穴を開け、ラジエーターのネックにある穴に通したものです。

「冷却水は水じゃん?そこまで必要なの?」

と思われるかもしれませんが、液体漏れにシビアなバイクレースではLLCを真水にしないといけないくらいなんです!!
つまりはLLCは滑る可能性があるという事です。
これも漏らしてはいけません!!

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(9) その他の応用例−6

これはオイルキャッチタンクの例です。

キャッチタンクには溜まったブローバイによる水と油を排出するためのドレンボルトがある物が多いと思います。
これも緩むと困るのでワイヤリング。
勿論、ワイヤリングの前に溜まった水や油を排出しておきましょう。

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(10) その他の応用例−7

これはエンジンオイルドレンボルトの例です。

4輪においてはここまでは要求されませんが、ワイヤリングを行う事で締め忘れを防止できるメリットはあります。
走行会やレース前で慌ただしくオイル交換、でも油量調整に抜いたりするからと仮締めのまま、本締めを忘れて...
なんて事もありますから。

ワイヤーの相手側が問題になりますが、箱スカの場合はオイルパン取り付けボルトにステーを噛ませてそのステーにワイヤーを通しました。
また、ワイヤーがオイルパン表面を這うので、チューブで保護して擦れによる破断を防止しています。
 

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(11) ワイヤーの捩り方

 簡単に基本的なワイヤリングの捩り方をご説明します。

(1) ワイヤーを通します。
この時、どのくらいのワイヤー長が必要かを判断出来ないと、最後に長さが足らなかった等という結果になります。
簡単な判断方法は、

「ワイヤリングを施す距離×2」+「手で握る長さ×2」

です。
おおよそ、ワイヤリングの距離×2+20cmといった感じでしょう。

(2)ワイヤーの捩り始め
ボルトヘッドを右回りに回し、捩る方向も右巻きで始まります。

(3)相手側へ
相手側の穴の近くまで捩って行きますが、少し(1〜2巻き)の余裕を残して止めます。
これは捩った部分が長すぎるとワイヤーにテンションがかからないためです。

(4)プライヤーで本捩り
今までは手で捩っていましたが、ここでプライヤーで本格的に捩ります。
プライヤーをグルグルと回すとワイヤーが捩られますが、プライヤーに近い部分が多く捩れ、ボルトの根元はなかなか捩れません。
そこを捩るにはプライヤーを回しながら円錐を描くようにするのです。
するとアラ不思議、根元が捩れます。

(5)相手側に通します
相手側の穴に通し、プライヤーで引っ張ります。
この時、捩りが多すぎるとワイヤーが弛んだままになるので、その場合は捩りを戻しましょう。

(6)相手側で捩ります
今度は相手側で捩りますが、最初とは逆で左巻きで捩りも左方向に捩ります。

(9)仕上げ
相手側に沿わせた後は図ではそのままカットしていますが、一旦折り返してカットすると引っ掛かりも無く万全です。

 
 以上はあくまで基礎知識でありワイヤリングの一例です(今後も例題は増やして行くつもりです)。
競技等に参戦する方はその競技レギュレーションに合致したワイヤリングを施して下さい。